絵本と年齢をあれこれ考える⑦

磯崎園子●絵本ナビ編集長 


自分と相手が同時に見えてくる(3歳と絵本・後編)


 コッコさんはいつも保育園の部屋のすみでひとりぼっち。アミちゃんもやっぱりひとりぼっち。コッコさんもアミちゃんも、もじもじもじもじ。だけどそおっと手をつないでみると、だんだん嬉しくなってきて……。『コッコさんのともだち』(片山 健・作・絵 福音館書店①)で繊細に描かれているのは、ひとりがふたりになる瞬間。ふたりがみんなになる瞬間。ひとりでいるより、誰かと遊ぶのって楽しい。みんなで遊ぶのって楽しい。進み方はゆっくり少しずつだけれど、それってものすごい発見なのだ。その時、3歳児の身体の中に、知らなかった感情が一気に生まれてくる。


『コッコさんのともだち』"
『コッコさんのともだち』
片山 健・作・絵 福音館書店


視界が広がっていく

 前回3歳というのは、「空想と現実が溶け合いながら」自由に絵本の中を飛び回ることができる貴重な年齢なのだと述べたが、同時に起こる大きな変化と言えば、やはり「他者との関わり方」だろう。器用に体を動かせるようになり、感情を伝えることも上手になり、少しずつ会話もできるようになってきて。自分に余裕が出てくると、途端に周りの景色もクリアに見えてくる。いつも何となく隣にいた子が今日もいる。あの子が持っているおもちゃは何だろう。この子は自分とはちょっと違うみたい。一緒にいると楽しいな。誰かを意識しながら、視界がどんどん広がっていく。そのことが、彼らの心にどんな変化をもたらしていくのだろうか。絵本の読み方にも影響があるのだろうか。

自分と相手が同時に見えてくる

 ねずみくんが嬉しそうに着ているのは、お母さんが編んでくれた赤いチョッキ。すると、あひるくんがやってきて「ちょっときせてよ」。ねずみくんはとまどいながらも「うん」。それを見ていたサルくんも「ちょっときせてよ」。さらにあしかくん、ライオンくんと続き、赤いチョッキはどんどん伸びてしまう。『ねずみくんのチョッキ』(なかえ よしを・作 上野 紀子・絵 ポプラ社②)の中で、最後にゾウさんが着ている様子を見て驚くねずみくん。それはそう、自分の大切にしていたチョッキがすっかり別物になっている(その後ちゃんとゾウさんがねずみくんを喜ばせてくれるのでご安心を)。理屈で考えると不条理に感じるが、この繰り返しに子どもたちは大喜びし、ゲラゲラ笑っているというレビューが、絵本ナビにも寄せられる。ねずみくんの気持ちに共感すると同時に、自分もねずみくんのチョッキを着てみたくなってしまうのだ。自分と相手が同時に見えてくる。単純そうで、なんて複雑な感情だろうと思う。


『ねずみくんのチョッキ』"
『ねずみくんのチョッキ』
なかえ よしを・作 上野 紀子・絵 ポプラ社


『そらまめくんのベッド』(なかや みわ・作・絵 福音館書店)も、保育園や幼稚園で圧倒的な人気を誇る絵本だ。その魅力は、本物そっくりな上に愛らしい「そらまめくん」のキャラクターであることは当然ながら、ここでもやはり「かして」「いいよ」のやり取りが重要なポイントとして描かれている。自分が大切にしたいものと、誰かが大切にしているもの。その認識は同時にやってくる。相手のことを考える力というのは、すでに3歳の頃から必要となってくる。

 もちろん彼らは絵本を通して勉強をしているわけではない。純粋に絵本を楽しむ中で、少しずつ自分と重なる感情の種類を身につけていく。『だるまちゃんとてんぐちゃん』(かこ さとし・作・絵 福音館書店)で、お父さんが家じゅうから引っ張りだしてきた帽子やうちわを並べ、その様子を眺めているのはたまらなく楽しい場面。けれど、そのきっかけとなっているのは、だるまちゃんがてんぐちゃんをうらやむ心。てんぐちゃんの持っているのと全く同じものがどうしても欲しい。幼少期からかなりの欲張りだった私にはよくわかる。一時も頭から消えないのだ。だけど、それはつらいばかりではない。その気持ちが発端となり、新しい遊びへとつながっていくこともあるのだ。

その感情には理由がある?

 こんな風に、いくら相手のことが見えてきたからといって、3歳というのは2歳の続き。イヤイヤ期だってまだまだ終わらない。安定してくるのは、もっとずっと先のこと。よく泣き、よく笑い、よく怒る。だけど確実に違ってくるのは、その感情には理由があるのだということ。

  『おむかえ』(ひがし ちから・作 佼成出版社③)の中で、朝からずっと泣き続けているのはこたろうくん。保育園に入ったばかりの彼が泣くのは、とにかくお母さんが大好きだから。お母さんじゃないと嫌だから。そんなに簡単に気持ちを切り替えられるものではない、けれど……。思いっきり泣くのも、頑張って乗り越えるのも、やっぱりお母さんに甘えるのも。どの感情も3歳の子には全部大切なもの。無理にしまい込まなくたっていい、全部包み込んであげるのが大人の役目だからねと、この絵本は語る。


『おむかえ』"
『おむかえ』
ひがし ちから・作 佼成出版社


 ぬいぐるみの『ほげちゃん』(やぎ たみこ・作 偕成社)が怒るのは、堪忍袋の緒が切れたから。なにしろぬいぐるみですから、そりゃあ苦労も多いよね。その怒り方ときたら、ティッシュを散らかし、ソファーで暴れ、ごみ箱を蹴っとばし、あげくの果てに……。でも、全てをやり終えたほげちゃんは、なんだかスッキリ幸せそう。あれだけ怒れれば立派なもの。自分のことはさて置いて、子どもたちはほげちゃんをあたたかい目で見守っている。

 一方で、日常では参考にならないほど圧倒的で強烈な存在感を放っているのが『三びきのやぎのがらがらどん』(ノルウェーの昔話 マーシャ・ブラウン・絵瀬田 貞二・訳 福音館書店④)に登場するトロル。なにしろ自分(やぎ)のことを食べようとしているのだ。相手を思うような余地なんてない。ところが、主人公である絵本の中の三びきのやぎは、その機転と勇敢さでトロルをこてんぱんにしてしまう。これもやっぱり痛快な体験なのだろう。「低い声を出して真似をする」「兄弟でたたかいごっこをはじめる」などのレビューにもある通り、子どもたちは、読んだ後でも、このやり取りを喜んで再現しては楽しんでみせる。極端な恐怖と安堵の繰り返し、これは絵本の中でしか体験できない感情であり、彼らはそれをわかっている。


『三びきのやぎのがらがらどん』"
『三びきのやぎのがらがらどん』
ノルウェーの昔話 マーシャ・ブラウン・絵瀬田 貞二・訳 福音館書店


見逃せないもの

 お買い物という日常のシチュエーションで、主人公の女の子の心の中にぎゅっとスポットを当てているのが『はじめてのおつかい』(筒井 頼子・作 林 明子・絵 福音館書店)。百円玉を二枚握りしめ、緊張と不安の中、お店の人に大きな声で呼びかける。「ぎゅうにゅう くださあい」。この瞬間に、どれだけの勇気が必要だったろうか。絵本を読みながら、多くの子どもたちは励まされるのである。周りの景色が見えてくるということは、社会との関わりの始まりでもある。関係性も感情も、こうしてどんどん複雑になっていく。

 変わらないはずだった家族との関係性の変化が訪れるのも、この時期が多いだろう。妹や弟ができ、あっという間にお兄さん、お姉さんになってしまうのだ。『ちょっとだけ』(瀧村 有子・作 鈴木 永子・絵 福音館書店⑤)の主人公、なっちゃんもそう。色々なことを自分ひとりでやってみる。ちょっとずつ頑張って「おねえちゃん」になってみる。これはとっても立派なこと。でもね。まだまだ小さくて可愛いなっちゃん。思いっきり甘えていいのです。


『ちょっとだけ』"
『ちょっとだけ』
瀧村 有子・作 鈴木 永子・絵 福音館書店


 こうした小さな変化を見逃さないようにしてあげたいのは、大人の方。3歳の時に、3歳だからこそ、読んであげておきたい絵本というのは沢山ある。なにしろ、昨日の我が子と今日の我が子は全然違うのかもしれないのだ。感じ方だって、楽しみ方だって、見えている景色だって、どんどん変化していく。

3歳の目には、どう映る?

 最後に、このふわふわっと柔軟な3歳児の感性を持って読んでみてもらいたくなるのが、まったくもって不思議な絵本『ごろごろにゃーん』(長 新太・作・画 福音館書店)。猫で満席となった飛行機が「ごろごろにゃーん、ごろごろにゃーん」と飛んでいく。理屈を超えたところにある世界。彼らの目にはこの景色がどう見えているのだろう。大きくなってから、改めて感想を聞いてみたい。……3歳と絵本の関係に魅せられ、夢中になってしまっているのは、どうやら私の方かもしれない。

   自分のことだけでなく、相手の気持ちや知らない誰かの心の中を想像する。絵本を読んでいて驚くのは、この当たり前のことに既に3歳の頃から向き合い始めているのだということ。やはりこの年齢が大事な時期であることは、言うまでもない。

   大人っぽい発言をしてまわりを驚かせたり、かと思えば急にかんしゃくを起こしたり。本人が成長に追いつけなくてとまどうことも多い4歳。だからこそ絵本の存在は大きい? 次も2回に分けてのお話です。お楽しみに!


★いそざき・そのこ 絵本情報サイト「絵本ナビ」の編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作などを行うほか、各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)。

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