こどもの本

私の新刊
『海の底で出あった命』 鍵井靖章

(月刊「こどもの本」2015年4月号より)
鍵井靖章さん

海の底で出あった命

 東日本大震災の後、誰よりも早く三陸の海に潜りました。週刊誌からの依頼で、海底に引きずりこまれた車や家、漁網、生活用品などの撮影が目的でした。しかし、私には、もうひとつテーマがありました。それは傷ついた海底で、津波から生きのびたお魚などの生き物を確認し、撮影することでした。

 実際に、震災の海に潜ることは大変な勇気が必要でした。私の撮影をサポートしてくれるバディ(プロダイバー)といっしょに潜っていたのですが、一度、海中でひとりになったときは、言葉にできない恐怖が全身を襲い、海からすぐにでも上がりたい衝動にかられました。そのような思いをぐっとこらえながら、四月三日〜五日の三日間、岩手県宮古市と大船渡市の沿岸を潜ったのです。海底にはまだ藻や海藻が付着していないきれいなピアノや生活用品などが、たくさんありました。そのような品々を撮影しつつ、私は生き物の姿を探しました。ヒトデやウニなどは見つかるのですが、お魚の姿はまったく見られませんでした。そのようななか、バディが宮古湾の海底で、一匹のダンゴウオを見つけてくれたのです。

 海底にうずくまったダンゴウオは私をじっと見つめ、何か物言いたげでした。私は殺伐とした海底で見つけた奇跡のような小さな命を、みんなに伝えなくてはいけないと思ったのです。このダンゴウオとの出あいで、私は震災の海を記録していく決意をしました。

 震災から一年後の海ではたくさんの「新しい生命」に出あいました。生き物たちの誕生は、なんて力強くたくましいのだろう! それが撮影のテーマとなり、私を支える大きな力となったのです。

 まだ生活用品などの人工物が沈む海底で、いつしか彼らは共存し、新しい生活を始めました。そして、震災前と変わらない、四季にそった繁殖活動を行っています。

 震災の海の中でも連綿と命はつながっているということを、みなさんに伝えたいのです。子どもたちが、そのことを知ることで、この地球の未来はよい方に向かうことを信じて。

(かぎい・やすあき)●既刊に 『ダンゴウオ 海の底から見た震災と再生』『海中散歩』『夢色の海』など。

「ダンゴウオの海」
フレーベル館
『ダンゴウオの海』
鍵井靖章・写真・文
本体1,400円