こどもの本

私の新刊
『おじいちゃんのたびじたく』 斎藤真理子

(月刊「こどもの本」2021年5月号より)
斎藤真理子さん

だいすきな人との会い方

韓国映画やドラマ、文学の特徴の一つは、人懐かしさではないかと思います。人と人の距離が近く、人が人を求める気持ちが物語を牽引するのです。

『おじいちゃんのたびじたく』のおじいちゃんの荷造り作業も、人を思いながら進行します。先に旅立った奥さん、囲碁仲間のファンさん、そして最後にお父さんとお母さん。おきゃくさまはそれを見守りながら案内役を務めます。

この絵本は、作者のソ・ヨンさんがおばあちゃんに寄せる思いに支えられています。おじいちゃんの家の玄関に大きなかぼちゃが置いてありますが、それはソ・ヨンさんのおばあちゃんちの玄関の再現なのだとか。この大きなかぼちゃで、「かぼちゃがゆ」(かぼちゃのお汁粉のような伝統的なおやつ)を作ってくれたそうです。「隅っこにずっと置かれて熟する準備をしているかぼちゃは、この本の中のおじいちゃんと似ている感じです」と教えてくださいました。

かぼちゃにたとえられたおじいちゃんは、後ろ姿のシャツのしわ、卵をゆでる手つき、外へ出たときの晴れやかな表情まで、どこかで会ったような親しみにあふれています。この絵本の翻訳は私にとって、韓国の懐かしい方々を思い出す作業でもありました。

おじいちゃんが80歳ぐらいとすると、幼児のころは韓国が日本の植民地で、悲惨な朝鮮戦争が始まったころには10歳前後です。その後、韓国が貧しく、また軍事独裁政権下で不自由な時代に一生けんめい働き、子育てをしてきた世代です。誰ものほほんとはしていられない激動の歴史を生き抜いた生命力が、人懐しさの裏に見え隠れします。

コロナ禍でおじいちゃん、おばあちゃんに会えない子どもさんも多いことでしょう。『おじいちゃんのたびじたく』はそんな時期に刊行の運びとなりました。コロナがなくともいつか必ずやってくるお別れの日。この絵本はいつの日か、「どこのおじいちゃんもおばあちゃんも、こうやって『だいすきな人に会いに行く』んだよ」と教えてあげるのに役立つかもしれません。

(さいとう・まりこ)●既訳書に『すいかのプール』『3人のママと3つのおべんとう』『保健室のアン・ウニョン先生』など。

『おじいちゃんのたびじたく』"
小峰書店
『おじいちゃんのたびじたく』
ソ・ヨン・文・絵/斎藤真理子・訳
定価1,540円(税込)