こどもの本

私の新刊
『ヴォドニークの水の館』 降矢なな

(月刊「こどもの本」2021年5月号より)
降矢ななさん

中欧の河童・ヴォドニーク

チェコとスロヴァキアにも河童がいることを知ったのは、今から約30年前、私がブラチスラヴァの美術大学に留学していた時でした。仲良くなった学生たちとの雑談の中に出てきた「ヴォドニーク(Vodník)」が、それでした。水のチェコ語「ヴォダ(Voda)」が語源の「水の人」。ヴォドニークは洒落者で、緑の帽子に燕尾服、ズボンを身にまとい、パイプでタバコを吸ったりします。こちらの友人に、「日本の河童は裸で背中に亀のように甲羅があり、頭に水の入ったお皿が乗っていてその水がこぼれるとへたれ、好物はキュウリ」と話すと吹き出されます。ヴォドニークにもいろいろ愉快でまぬけなエピソードがあります。ヴォドニークは燕尾服がぬれている間は地上に出ていられます。裾から水をぽたぽたさせながら村の飲み屋に出かけ、その正体に気づいた村人にこっそり裾の水を絞られ、あわてて川に逃げ帰ったり、カエルが奥さんだったり……。チェコ人、スロヴァキア人にとってとても愛すべき妖怪なのです。

しかし実は、ヴォドニークも河童と同じく、河や池で人間を溺れさせ魂を抜き取る、ほんとうは恐ろしい存在です。ヴォドニークは抜き取った人の魂を蓋つきの壺の中に閉じ込めて、蒐集しておくのです。

8年前に挿絵を担当した中・東欧の昔話集『三本の金の髪の毛』では、カラー口絵に、壺に閉じ込められた魂を解放する娘の場面を描きました。その幻想的なイメージが強く心に残り、編集者の鈴木加奈子さんと「いつかこんなお話を絵本にしたいですね」と話しました。今回、やっとその夢が形になりました。文章は、私のスロヴァキア留学を後押しくださったチェコ語翻訳家の関沢明子さんのお弟子さんのまきあつこさんです。

絵本『ヴォドニークの水の館』には、孤独な近寄りがたいヴォドニークが登場します。絵を描くにあたって生と死を意識しました。お話を楽しみながら、中央ヨーロッパの空気を感じていただけたら嬉しいです。

(ふりや・なな)●既刊に『ナミチカのきのこがり』『三本の金の髪の毛 中・東欧のむかしばなし』(絵)など。

『ヴォドニークの水の館』"
BL出版
『ヴォドニークの水の館』
まきあつこ・文/降矢なな・絵
定価1,760円(税込)