こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ19
『きみが、この本、読んだなら』セット さ・え・ら書房

(月刊「こどもの本」2020年11月号より)
『きみが、この本、読んだなら』セット『きみが、この本、読んだなら』セット

アナタが、この本、読んだなら

戸森しるこ、森川成美・他 文/吉田尚令 絵
2020年3月刊行

 図書委員--なつかしい響きです。わたしは中学校の三年間、図書委員でした。特に力を入れたのが、図書新聞の制作です。当時、あさのあつこさんと豊島ミホさんがマイブームで、新聞の中でよく紹介しました。悩み多き思春期の真っ只中、物語に登場する人物たちのストレートな行動に爽快感をおぼえ、飾らない言葉にはげまされました。こうした好きな本を紹介できるのは、本当に楽しい活動でした。 

 自分にとって特別な人に本を紹介するということは、自分の思いを、本にこめて、伝えるということ。そして、紹介された人にとっても、思いがこめられたその本は特別なものになる。そんな読書経験を物語にしたいと考え、企画したのが、『きみが、この本、読んだなら』セットです。『ざわめく教室編』と『とまどう放課後編』の2巻構成で、それぞれ4作品ずつ計8作品を、個性豊かな8名の作家の方々に執筆していただきました。物語の中で、現実に存在する本を、主人公が紹介したり、されたりします。

 たとえば、「『ダレカ』をさがす冒険」という作品があります。主人公の長尾息吹は、本を読みません。苦手なことに挑戦すべきだと、図書委員に選ばれてしまいます。おすすめの本の紹介文を書くことになった息吹は本を選ぶため、祖母の家を訪れ、岡田淳さんの『二分間の冒険』に出会います。その本には「わたしも自分自身でダレカをさがす冒険をしたいです…」と書かれた手紙がはさまっていました。これは息吹の母親が小学生のときに書いたものでした。手紙に書かれた「ダレカ」の正体が気になり、息吹は『二分間の冒険』を読みはじめます。慣れない読書にとまどいながらも、だんだんと本の中の「ダレカ」さがしに引きこまれていきます。最後に母親の手紙の意味がわかった息吹は、この本をみんなに紹介することに決めるというストーリーです。 

「主人公みたいに、自分で何かをつかんでみたくなったんだ」と、息吹は読書を通じて友人の存在や勇気を持つことの大切さに気づきます。また、同じ本を読んだ者同士の不思議な連帯感も味わいます。

 リアリズムの小説に惹かれ、ファンタジー作品は敬遠しがちだったわたしですが、「『ダレカ』をさがす冒険」を読んで、久しぶりにファンタジーが読みたくなりました。『きみが、この本、読んだなら』を読んで、あなたも新しい本を読みたくなったら、お気に入りの本をだれかに薦めたくなったらと考えると、〝元図書委員〟の心はざわついてなりません。

(さ・え・ら書房 浜本光志)