こどもの本

私がつくった本35
文溪堂 黒澤鮎見

(月刊「こどもの本」2012年5月号より)
はるになると/ともだちはどこ?

『はるになると/ともだちはどこ?』
J・W・アングランド/作、小川 糸/訳
2012年3月

 私は、可愛い小さな雑貨が好きなので、この本を初めて見たとき、手のひらサイズの小ささや、イラストの子どもたちがおもちゃのように愛らしくて、宝物を見つけたような気持ちになりました。

 この2冊の原書は、1950年代後半にアメリカで出版されたもので、内容は「ともだち」や「季節」という普遍的なことをテーマにしていました。短い文章で、子どもにも分かりやすい言葉で書かれているのに、心に響くメッセージが込められていて印象的でした。イラストも文章も読む人を惹きつけるとても魅力的な本だと思い、さっそく編集会議に企画提案をし、出版に向けて動き出すことができました。

 しかし、出版にあたり大きな壁が! アメリカではすでに絶版となっていて、版権もアメリカの出版社から、著者に戻っていました。その著者もどこに居るのか分からず、暗礁に乗り上げてしまいました。あきらめきれず、些細な情報をたよりに、やっとご家族と連絡をつけることができたのです。こうして出版契約を結ぶまでに半年が経っていました。

 出版の快諾は得られましたが、原画は古くなっており、取り寄せは不可能でした。こうなると原書を元に印刷するしか方法がありませんが、今度は、新しい原書が手に入りません。結局、古本をスキャンすることになりました。『はるになると』の原書は、日焼けしていて、印刷所の製版担当者からも「これが原本ですか?」と驚かれるほどでした。そして、原書は特殊なインキで刷られているので、近い色を出すのにも数ヶ月がかかりました。その努力のかいがあり、原書のイメージにかなり近づけられました。

 翻訳は、作家の小川糸さんにお願いしました。『食堂かたつむり』で、生死にまつわる物語ながら、料理を通してあたたかい親子愛を描いたこの作品が私は好きで、イメージにぴったりだと感じたからです。小川さんは、絵の雰囲気や文章の意図を理解して最良の言葉を選び、素敵な訳文をつけてくださいました。

『はるになると』は、冬がようやく終わり、緑にあふれる春の喜びを、輝く未来への期待と重ねています。

 もう1冊の『ともだちはどこ?』は、やさしい語り口調で、ともだちは探せば身近なところにいるよと、教えてくれます。実際、この本は著者が、田舎から大都会へ引っこした後、ともだちがいなくてさみしがっていた子どもたちのために書いたそうです。

 長く続く冬の閉塞感や、ともだちがいなくて寂しいという思いは、私たちがふだんの生活の中で感じる気持ちにも共通するように思います。この本を読んで、春は誰にも訪れるし、あなたを支えてくれる誰かには必ず巡り会えるという、著者のやさしさにあふれた思いが読者に伝わってくれることを願います。
 この2冊には専用のセット箱を付けました。大切な人へ想いと共に、贈ってもらえるとうれしいです。