こどもの本

私の新刊
『キツネのはじめてのふゆ』 横山和江

(月刊「こどもの本」2018年11月号より)
横山和江さん

若ギツネの気持ちに寄り添う

 尊敬する翻訳家がおっしゃった「翻訳者はミディアム(霊媒者)」という言葉に大きくうなずいたことがあります。作品に集中していると登場人物の声が自然に聞こえてくるときがあるからです。物語を創作できなくても翻訳作業を通して作品世界を構築できるのが翻訳者の醍醐味だなあと日々感謝しています。

『キツネのはじめてのふゆ』の原書 "Winter Dance" の表紙をインターネットで見た瞬間、キツネのたたずまいにひとめぼれしました。画家のリチャード・ジョーンズの絵はナイーブな筆づかいで、控えめな印象です。若ギツネが冬にそなえてすることを、森の生きものたちから教えてもらうたびに、"That won't do for me" と答えるキツネの気持ちに寄り添い、毛虫やカメ、リス、カンジキウサギなどの登場人物たちは、どんな風にキツネに語りかけるだろうかと作品世界に没頭するのは楽しくもあり苦しくもあり……。

 わたしは出版社に原書を紹介する、いわゆる「持ち込み」主体で仕事をしているため、運命の出会いを感じると可能な限り調査をして「この人なら!」と決めた編集者さんに打診、ドキドキしながらお返事を待ちます。本作を紹介したときに編集者さんから「きゅんとした」といわれ、小躍りするほどうれしかったのは、わたしの第一印象とまったく同じだったからです。原書を見つけたときには邦訳がありませんでしたが、『ガラスのなかのくじら』(あすなろ書房)、『だいすき ライオンさん』(フレーベル館)と、つぎつぎに刊行されたので、画家のジョーンズは今後大いに活躍するのではと期待しています。また、文を書いたマリオン・デーン・バウアーはベテラン作家で、アメリカの児童文学に贈られるニューベリー賞オナーやゴールデンカイト賞に選ばれたこともあります。キツネが冬のあいだ、どのように過ごすのかが気になる方は、ぜひ手に取っていただけるとうれしいです。また翻訳を進める中で、ジョーンズのロマンチックな遊び心に気づきましたので、ぜひ絵をじっくりご覧になってみてください。

(よこやま・かずえ)●既訳書にロバートソン『わたしたちだけのときは』、キャンベル『フランクリンの空とぶ本やさん』など。

『キツネのはじめてのふゆ』"
鈴木出版
『キツネのはじめてのふゆ』
マリオン・デーン・バウアー・作
リチャード・ジョーンズ・絵
横山和江・訳
本体1、500円