こどもの本

私の新刊
『咸臨丸にかけた夢 幕末の数学者・小野友五郎の挑戦』 鳴海 風

(月刊「こどもの本」2018年1月号より)
鳴海 風さん

児童書でよみがえった絶版

 江戸の数学者がテーマの小説で新人賞を受賞した時、私はエンジニアとして会社に勤めていて、課長になったばかりでした。念願のプロデビューは果たしたものの、それですぐ独立というわけにはいきません。第一に会社の仕事も大好きで、夢中で取り組んでいましたし、大切な妻子四人の生活を守らなければなりませんでした。
 会社に勤めながらの執筆は、当然時間がかかります。出版社の気の長いサポートも必要です。そのような中、四つ目の作品『怒濤逆巻くも』(新人物往来社)は、原稿用紙千二百枚をこえる大作で、上下巻で出版されました。それは、笠間藩の下級武士だった小野友五郎が、数学の才能を活かし、咸臨丸の航海長として太平洋横断を成功させた実話がベースになっています。小野友五郎を主人公にした初めての小説で、執筆に五年かかりました。
 愛知県に住んでいる私は、機会あるごとに、国立国会図書館や国立公文書館、東大史料編纂所などに通い、笠間(茨城県)や横須賀、長崎へも取材に出かけました。五年間の半分以上を、史料調査と現地取材にかけた、地味でも本格的な歴史小説でした。
 月日は流れ、私は三年半前に、三十四年間勤めた会社を定年でやめましたが、その間に『怒濤逆巻くも』は文庫化もされたものの、どちらも絶版になっていました。他社での再版の道は険しいものでした。
 これまで扱われたことのない人物を発掘して作品にするという私のスタイルが、児童書でも評価されたのでしょう。今年、拙著『円周率の謎を追う』(くもん出版)が、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選定されました。その同じ年が、小野友五郎の生誕二百年に当たり、出身地笠間市では友五郎の偉業を後世へ伝えようと、記念行事が企画されました。私は『怒濤逆巻くも』を児童書として出版することが笠間市の意向にも合うと考えて、出版社に提案して実現しました。『咸臨丸にかけた夢』がそれです。絶版が児童書になってよみがえったのです。

(なるみ・ふう)●既刊に『円周率の謎を追う』『星空に魅せられた男 間重富』『ひらけ蘭学のとびら』など。

『咸臨丸にかけた夢 幕末の数学者・小野友五郎の挑戦』
くもん出版
『咸臨丸にかけた夢 幕末の数学者・小野友五郎の挑戦』
鳴海 風・著
関屋敏隆・画
本体1、500円