こどもの本

私の新刊
『流木のいえ』 石川えりこ

(月刊「こどもの本」2017年10月号より)
石川えりこさん

とくべつな本

 小さなころ、誕生日や父のお給料日には必ず街の本屋さんへ連れて行ってもらい、本を一冊買ってもらいました。

 長い時間をかけて自分の一冊を選ぶのですが、なかなか決める事ができませんでした。

 父は、気長に待っていてはくれるのですが、それでも時々、「おとうさんは小さい時この本が好きだったよ」と言って「デュマにはね、大デュマと小デュマと呼ばれた親子がいてね、『巌窟王』は大デュマが書いたんだよ」と教えてくれたり、またある時は、ケストナーの『五月三十五日』をすすめてくれたり、アンデルセンやグリム、神話のおもしろさも教えてくれました。

 そうやって私の本棚には、「とくべつな本」が一冊ずつ増えていきました。

 十年ほど前、田島征三さんが新潟に「絵本と木の実の美術館」を立ち上げる準備をされていました。作業のために横浜市の中山に小さな家を借り、そこへ私も手伝いに通っていました。

 みんなが迷わぬように、「流木のいえ」と看板もつくりました。

 伊豆で拾った流木を中山へ運び汚れを取り、征三さんの指示で色を塗ります。それを細いカズラでくくっていきます。

 征三さんがひとつふたつと制作されるかたちは、私の中で勝手に動き出し、小さなころに読んだ「とくべつな本」にでてくる主人公に思えてきました。

 流れ着いた木々に命が吹き込まれて、流木は、昔の自分を思い出しているようでした。

 また、別れ別れになっていた者たちも、征三さんの手によって再びめぐりあう事ができたようにも思えました。

 この時感じ、思いはせたことを『流木のいえ』という一冊にしました。

 小さなころ、父を待たせながらゆっくりと本屋さんで選んだ「とくべつな本」が、今も私の中に生きています。

(いしかわ・えりこ)●既刊に『ボタ山であそんだころ』『あひる』『てんきのいい日はつくしとり』など。

『流木のいえ』

小学館
『流木のいえ』
石川えりこ・作
本体1、400円